またまた久しぶりのブログ更新です…。勉強の秋、ということで、特許翻訳のセミナーに通っています。判例読みの課題が出されたので、まとめた内容をブログネタとして掲載します 😀 。

課題となった判例は、CAFC 2012-1507 (Apple v Samsung, 2012年10月)。被告Samsungに対する予備的差止めを原告Appleに認めた地裁判決に対するCAFC控訴判決です。(有名な判決らしいのですが、恥ずかしながら知知りませんでした。まぁ、学ぶためにセミナーに通っているのだから、よしとしましょう。)

この事件で問題となったのは、米国特許8086604号のクレーム6です。

6. An apparatus for locating information in a network, comprising:

a plurality of heuristic modules configured to search for information that corresponds to the received information descriptor, wherein:
each heuristic module corresponds to a respective area of search and employs a different, predetermined heuristic algorithm corresponding to said respective area, and the search areas include storage media accessible by the apparatus
….

被告製品のQSB(Quick Search Box)は、異なるアルゴリズムを使う少なくとも二つのヒューリスティックモジュール(Browser, People)と、それ以外に、異なるアルゴリズムを使うかどうか分からないヒューリスティックモジュールを含むものだそうです。

原告Appleは、被告製品が、異なるアルゴリズムを使う少なくとも二つのヒューリスティックモジュールを含むと主張しました。地裁は、その主張を認め、被告が原告の特許を侵害している可能性が高いとして、原告の勝訴可能性を認め、予備的差止めを認めました。

一方、CAFCは、原告Appleおよび地裁のこの解釈を否定しました。CAFCが問題視したのは、「a plurality of heuristic modules…wherein: each heuristic module corresponds to a respective area of search and employs a different, predetermined heuristic algorithm」との文言です。CAFCは、この文言を、「装置が備える全てのヒューリスティックモジュールがそれぞれ異なるアルゴリズムを使用する」と解釈し、原告Appleおよび地裁の解釈を否定しました。理由は、以下の三点のようです。
(1)「each」は「plurality of heuristic modules」に係るのではなく、「heuristic module」に係るものであるから、「each heuristic module」との文言は、装置が備える「全てのヒューリスティックモジュール(every heuristic module)」と解釈する必要があり、全てのヒューリスティックモジュールがそれぞれ異なるアルゴリズムを使用する必要がある。
(2)「A plurality of」は、「at least two」という意味ではあるが、多数の要素の中から特定のいくつかを選別(hand-pick)するという意味はなく、comprisingというopen-endのトランジションを使っていたとしても、異なるアルゴリズムを使用しないその他のヒューリスティックモジュールがクレーム6の範囲に含まれると解釈することはできない。
(3)審査経過において、原告Appleは、先行技術との差別化のために、「各モジュールが異なるアルゴリズムを使用する」と主張した。

以上を理由として、CAFCは、地裁が下した原告の勝訴可能性を否定し、予備的差止め命令を差し戻しました。

―――
私見:
このCAFC判決から、plurality of や each や whereinの使い方には注意すべき、という示唆を得ることができると思います。

ひょっとすると、「each heuristic module」ではなく「each of the plurality of heuristic modules」と書いていたり、wherein節ではなく分詞構文で書いていたりしたならば、別の結論になったかもしれませんが、本事件では、審査経過や明細書における原告Appleの主張も考慮されているようなので、そう単純にはいかないような気もします。