和文(原文)のクレームに「~したとき」と書いてあったとき、どのように訳すか、悩むことはありませんか?

先日受けたセミナーで、「『~のとき』は『when』ではなく『in response to』と訳すと良い」という話を聞いて、そこまで訳してしまってよいのだろうか…と悩んでおりました。

たまたまパテント誌2020年9月号の「コンピュータソフトウェア(CS)関連発明の国内裁判例の分析」という記事を読んでいたところ、日本の裁判例で、「~したとき」という文言を「~を条件として」と解釈した例があると知り、なるほど「~したとき」は、「in response to(~に応じて)」と訳しても良い場合もあるのかな、と考えた次第です。

平成28年(ワ)第14868号では、「上記第二のメッセージを送信したとき、上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する」等のクレーム文言の解釈が争われました。

被告システムでは、会員Bが会員Aの”マイミク追加リクエスト”を承認した旨の通知を受信したら、被告サーバが、会員Aと会員Bを”マイミク”として記憶し、”マイミク追加リクエスト”が承認されたことを会員Aに対して通知する、ということをしているようです。つまり、”マイミク”登録されたことを条件として、リクエスト承認が通知される、という仕組みになっているようです。

原告は、上記クレーム文言中の「とき」は「同じころ」や「ある程度の幅をもった時間」を意味すると主張し、被告システムが承認メッセージを送信した「とき」(=ころ)に、関連づけの記憶(“マイミク”登録)が行われているといえる、と主張しました。

裁判所は、原告の主張を退け、被告システムが原告特許を侵害しないと判断しました。裁判所は、「『送信したとき』の『とき』は、条件を示すものであると解するのが相当である」と判断し、「被告サーバは…第二のメッセージを送信したことを条件として『マイミク』であることを記憶するという構成を有するものではない」と判断しました。

「とき=条件を示す」と判断した根拠として、広辞苑や大辞林の記載や、最新法令用語の基礎知識(改訂版)の「『時』は時点や時刻が特に強調される場合に使われるのに対して、『とき』は一般的な仮定的条件を表す場合に使われる」との記載が挙げられていました。また、本件特許の明細書中、「送信したとき」の「とき」を「条件」ではなく「時間」を意味することをうかがわせる記載がなかったことも、裁判所の判断に影響したと考えられます。

和文クレームの作成者が、「とき」を「when」の意味で書いたのか「on condition that/in response to」の意味で書いたのかを適切に判断したうえで、英訳する必要があるのかな、と思いました。(本当は、和文クレームを作成する段階で、「時」なのか「を条件として」なのか「の場合」なのか、きちんと明示してほしいところですが。)

そして「最新法令用語の基礎知識」は早速ポチりました 😉

※追記:「on condition that」はクレームで使うのかな?と思い調べてみましたが、使う場合もあるようです。(US9755989B2)