特許翻訳(特に英訳)をしていると、「『~するための手段』みたいな機能的記載に気をつけろ」という話を聞くと思います。今日は、機能的記載(means plus function=MPF)に出会ったときに特許翻訳者ができることについて、改めて考えてみたいと思います。

(1)「機能的記載(means plus function=MPF)」とは?
「機能的記載(means plus function=MPF)」とは、次のような表現をいいます。

「画像を表示するための表示手段」

この例では、「画像を表示する」という機能を捉えてクレームを記載しています。「画像を表示する」という機能を実現するための具体的な構成としては、例えば、液晶モニタ、プロジェクタスクリーン、ヘッドマウントディスプレイなど、色々あると思いますが、「画像を表示するための表示手段」という機能に着目した表現を使うことで、様々な実施形態を包含する広い権利を狙える可能性があります。(また、コンピュータ関連発明の場合、コンピュータが実現する機能そのものが発明の構成要素となる場合も多く、機能的記載を使わざるを得ない場合もあるかと思います。)

(2)日米の特許実務の比較
日本の特許実務上では、クレームで機能的記載を使うことは、さほど問題にならず、審査では、機能的記載は基本的に文言通りに解釈されます。(ただし、クレームの範囲が、明細書に具体的に記載されていない場合等は、サポート要件違反や実施可能要件違反とされる場合はあります。)

一方、米国では、日本とは異なる解釈がされます。米国特許法112条(f)項には、次のように規定されています。

35 U.S.C. § 112
(f) ELEMENT IN CLAIM FOR A COMBINATION.—An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof.

つまり、米国特許法では、「組合わせクレームの構成要素(エレメント)をその構造・材料等を明記せずにその機能を遂行するための手段として記載することができるけれども、その場合、当該クレームは、明細書に記載された対応する構造・材料等、またはその均等物に限定して解釈しますよ」と規定されています。機能的表現を使ってクレームを広く書いたつもりが、逆に、明細書に記載した具体例のみに当該エレメントが狭く限定解釈されてしまう場合があるのです。また、明細書に具体例なりアルゴリズムなりが記載されていない場合には、クレームが不明確であるとか実施可能でないとかの拒絶理由が発せられる可能性があります。このような理由から、米国特許実務ではMPF表現に気をつけましょう、という話になるのです。

米国特許法112条(f)項のMPFに該当するかどうかは、現在のMPEP 2181に規定された3-prong analysisによって判断されます。すなわち、

①「means/step」又はその代用語(generic placeholder)が使われている
②「means/step」又はその代用語が、機能的表現で修飾されている
③「means/step」又はその代用語が、クレームされた機能を実施するのに十分な構造・材料等で修飾されていない

3要件を全て満たすと、112条(f)項が適用される、というものです。

MPEP 2181では、要件①の「meansの代用語」の例として、次のようなものが挙げられています。かなり多くの語が「代用語」として例示されていることが分かります。

“mechanism” “module” “device” “unit” “component” “element” “member” “apparatus” “machine” “system”

要件②に関しては、“for ~ing”、“configured to do”、“so that…”等のlinking wordを使って機能を表現した場合に要件②が適用される、としています。

一方、「構造的」であると判示された文言として、以下が例示されています。

“circuit” “detent mechanism” “digital detector” “reciprocating member” “connector assembly” “perforation” “sealingly connected joints” “eyeglass hanger member”

(3)「機能的記載」をどのように訳すか?
では、日本出願のクレームに機能的記載が含まれている場合、どのように英訳するのがよいでしょうか。当然、クライアントのご希望があるなら、基本的にはご希望通りにすると思いますが、本稿では自由に検討してみようと思います。

まず、原文通りに訳すと、次のようになります。

「画像を表示するための表示手段」
訳例1: (a) displaying means for displaying an image

※ここで、meansに不定冠詞をつけるかつけないかは、クライアントによって考え方が異なると思います。不定冠詞をつけた単数扱いとする場合もあるし、単数無冠詞とする場合もあるし、無冠詞で複数扱いとする場合もあります。

訳例1をMPEPの3-prong analysisに当てはめると、①“means”という語が使われていて、②“means”という語が“for displaying”という機能的表現で修飾されていて、③“means”について十分な構造・材料が示されているとはいえないでしょう。このエレメントは、要件①②③すべてを充足するので、恐らく112条(f)項のMPFと判断され、明細書の中に記載されている具体的な実施形態およびその均等物に限定解釈されると考えられます。

112条(f)項のMPFと解釈されることは絶対悪ではないと思うのですが、MPFと解釈されるのを避けたい場合、どうしたらよいでしょうか?次のような訳はどうでしょうか?

訳例2: a displaying unit configured to display an image
訳例3: a display configured to display an image

訳例2を見てみます。“means”ではなく“unit”が使われているものの、おそらく“unit”はgeneric placeholderと解されて要件①の適用を免れることはできないでしょう。また、“configured to”は機能的表現のlinking wordと解されて、要件②も充足してしまうでしょう。さらに、当該機能を実現する構造によって修飾されていないので、要件③も充足してしまうでしょう。要件①②③のいずれも充足するので、MPFと解釈される可能性が高い気がします。

一方、訳例3は、“means” “unit” “device”等のgeneric placeholderは使っていないし、また、“display”という語が「構造的」であると判断される可能性もあるように思います。なので、「表示手段」という語を“display”と訳して、例えば訳注などで「USでの解釈を考慮して、『表示手段』は“display”と訳してあります。」等のコメントをしてもいいのかもしれません。ただし、クライアントによっては、「『手段』はそのまま“means”と訳して欲しい」等の希望もあると思いますので、クライアントの意向は必ず確認すべきと思います。

以上を踏まえると、日本語のクレームが機能的表現で書かれている場合、小手先の翻訳で112条(f)項のMPF解釈を避けるのはなかなか難しいのかなぁ、というのが正直な感想です。なので、米国出願を予定している場合には、できれば、日本語の明細書・クレームを作成する段階で相応の「手当て」をしておいて頂けるとよいのかな、と翻訳者としては思います。

なお、うまく「手当て」(工夫)されているなぁと思う案件としては、次のようなものがあります(日本特許第6461141号と米国特許No. 10645428B2のペア)。

日本特許第6461141号(一部引用)
【請求項1】 画像がタイル領域に分割して符号化されることで得られる符号化済みメディアデータに基づいてメディアファイルを生成する生成装置であって、
それぞれが1以上のタイル領域の符号化済みメディアデータを有する2以上のタイルトラックを生成するトラック生成手段と、…
を有し、…
…ことを特徴とする生成装置。US10645428B2(一部引用)
1. An apparatus for generating at least one media file based on an encoded bit-stream, the encoded bit-stream comprising image frames, each image frame comprising a plurality of tile regions, the apparatus comprising:
a hardware processor; and
a memory storing one or more programs configured to be executed by the hardware processor, the one or more programs including instructions for:
creating one or more tile tracks, each tile track comprising image data of one or more tile regions of each image frame;….

色々考えることがありますね。それが特許翻訳の醍醐味でもあるような気がします。